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 助産婦雑誌 第51巻 第5号 1997年5月25日発行 医学書院

  特集 助産婦さんとパソコンネットワーキング

  パソコン通信でホームパーティを開設、子育て相談に乗る

    奥 田 朱 美  櫟本助産所(奈良県天理市)

はじめに

 近年,パソコンを扱う世代も若い人を中心に実年層や主婦などにも広がってきていま
す。
 そこで私もマッキントッシュ・パーフオーマ575という機種のパソコンを購入しま
した。目的はといえば,ただ「パソコン通信をしてみたい」ということでしたが,ハー
ドウェアのセッティングからソフトウェアの設定などに手間取って,楽々通信をするの
には3か月もかかってしまいました。パソコン初心者の機械音痴の私には,やはり難し
いものでした。

ホームパーティの主宰者になる

 大手のパソコン通信網に入会して,電子メールの交換(文通のようなもの)やマッキ
ントッシュLH570に関してのホームパーティ(少人数での会議室のようなもの)参
加を中心にしてパソコン通信をして遊んでいましたが,そのうち私にもホームパーティ
が開けないものかと考えるようになりました。
 私の入っているニフティサーブというパソコン通信網にはさまざまなサービスがあり
ますが,ホームパーティというのは個人が簡単に開設できるプライベート会議室のよう
なものです。
 一般に開放された会議室(ニフティサーブではフォーラムという)と違い,個人が管
理者となって自由に開設し,管理者からパスワードを教えてもらった人だけが参加する
ことができます。
 パソコン通信の良いところは,誰もが電話回線を使って好きなときに(深夜や休日で
も)参加できるので,距離や時間が関係ないところです。ちょうど喫茶店の雑記帳のよ
うに,いつでも立寄ったときに会議室に書かれた文章を読んだり,返事を書いたり,新
しい話題を書き込んだりできます。喫茶店と違うのは,何といっても距離の問題で,電
話回線を使っていますから,ひとつの会議室にたくさんの人から意見を聞くことができ
るので,情報も豊富になります。
「妊娠・出産・子育て」に関しての話題をテーマにしたホームパーティを開きたいと考
え始めましたが,メンバーを集め始めても,活発に書き込みがなければ自然消滅してし
まいますし,言葉上のお付き合いですから雰囲気作りも難しいかと,通信初心者の私に
はためらいがありました。実際に念願のホームパーティを開いたのは約1年後のことで
す。
 できるだけ,いろいろな立場のメンバーからバラエティーに富んだ話が聞けるように
と,妊娠中の人を中心にさまざまな人に会員募集をし,おそるおそる始めました。今で
は会員が約50名になりました。妊娠中の人,小さな子供のいるお母さん,赤ちやんを
産んだばかりのお母さん,義両親と同居の人,若いパパ,働くお母さんと立場もそれぞ
れで,ご主人の職業もさまざま,住んでいる地域も北海道から九州までと,大変バラエ
ティーに富み,おかげで幅の広い意見交換のできるホームパーティとなりました。
 なかなか活発にならずに潰れてしまうホームパーティが多い中何もよく分からない私
が開いたホームパーティにこんなにたくさん集まって下さるとは思いませんでした。書
き込みは3か月後に800通を越え,1年で2000通を越え,その後も同じペースで
進んでいます。

管理者としてこころがけていること

 管理者としては,読んでいるだけであまり発言のない人に「最近どうしてますか→と
声をかけたり話題を振ってみたりします。そのほかにも,全体的に楽しく,しかもある
程度は勉強になるようにと心がけています。
  助産婦としての経験を求めてくる人には例を話したりもしますが,助産婦だからと
指導しているというよりは,先輩としていろいろアドバイスする,また,他の人に意見
を聞いてみるという形で,一方的な指導にならないようにすることで,交流の雰囲気の
維持をはかっています。何といっても,メンバーが楽しく交流できることが一番です。
文字の上での交流ですから,固い一方でもつまらないですし,時には冗談を言ったりし
ながら,なごやかな雰囲気が保てるように気をつけています。
  次に私の主宰するホームパーティに寄せられた実際のメッセージをいくつか紹介し
ます。

会員からのメッセージ

 ホームパーティでは実名は使いません。ハンドルネームといって,通信で使うペンネ
ームのようなものをみなさん自分で自由につけています。
 ホームパーティを開いてすぐに電子メールでお誘いした中から,さっそく何人かが自
己紹介をして下さいました。メッセージの一部ですが紹介します。

自己紹介

●栃木県 恵理ママ
 私は3月30日に女の子「恵理」を出産したばかりです。退院が6日だったので育児
もまだまだこれからです。助産婦さんでいらっしゃるそうで,できればホームパーティ
に参加していろいろお話を聞きたいと思います。
 私はホームパーティは初めてですのでどのようなものか分かりませんが,詳細など整
いましたら,御一報ください。

●福岡県 YURI
 ただいま妊娠3か月,26歳の主婦です,はじめての妊娠なので分からないことや不
安なことでいっぱいです。ぜひ,ホームパーティに参加させて下さい。

●千葉県  リカ
 今も会社からアクセスしているのですが,経過は順調で,このまま順調であれば,い
っそのこと自宅で分娩をしたいと思っております。でも,本を読んだだけの知識ですし
,経験もないし,ちょっと高齢?(32歳)だし,会社員をしているので準備のための
十分なリサーチができない等の理由から,産婦人科に通っています。

●静岡県 MIYA
 ホームパーティに興味がありますので,参加したいと思います。結婚して1年半にな
りますが,子供ができず,助言が得られればと思います。

●東京都  楓子
 私は現在16週で9月23日出産予定日の30歳の主婦です。結婚5年目にしてやっ
と子宝に恵まれまして,そうかと思ったら,「トキソプラズマ」の検査にひっかかり,
結局2月の検査では問題なしだったんですけど,今週末の検診で,また再検査します。

●北海道 Rook
 皆さんがどんな雰囲気で参加されているのか見てみたいです。でもパパが参加すると
雰囲気が壊れないか心配だったりします。女性だけなら気軽に聞けることも聞けなくな
りそうで…。(MIYAさん,Rookさんは男性です)


相談・質問とそれに対する反応

 3400通ほど書き込みの中で質問と答えをランダムにピックアップしてみたいと思
います。

<質問>

 昨日,犬の散歩に公園に出かけたら生後6か月の赤ちゃんを連れて嘗ている人がいま
した。その人は大学病院で出産したそうなんですけど,退院したその日から「自転車に
乗ったり歩いたり,どんどん動きなさい」と指導されたそうです。産後21日間は寝て
いるとか,情報がいろいろで,う〜ん悩んでしまう!(東京都・楓子)

<答>
 この質問には,いろいろな情報を集めて,自分で良いと思うものを選んで,良くない
と思うものは削除するように指導しました。そのお返事は「全くその通りです」とのこ
と。
<質問>
 夜は誰と寝ますか。うちはみんな一緒に寝てました。夜中の授乳にもしっかり旦那に
つき合ってもらってました。次の日は仕事で大変だろうなあ〜という優しい気持ちはも
ちろんありましたが,最初の3か月ぐらいは夜中に起きると,赤ちゃんが泣いてなかな
か寝てくれなくて,新聞が配達される音を虚しく聞く毎日で,イライラして仕方がなか
ったからです。夫がつき合ってくれなかったらどうなっていたことか。(千葉県・さと
み)

<答>
 ここでは,「私は主人とは別に寝ました」とだけ書いたら,他の人もいろんなことを
言ってくれました。結局,質問者は,「4人の意見のうち3人が一緒に寝る・1人が寝
ない」とか言っていましたが,「実際になればどうだかわからない」とのお返事でした


<質問>
 僕の奥さんが質問があるそうで…。「妊娠線予防クリームというのが出ているような
のですが,本当に効くんですか? もし購入する場合,助産婦会推薦とかワコールとか
,いろいろあるみたいなんですけど,どれを購入したらいいのでしょうか?」(東京都
・トンビ)

<答>
 ここでは「ストレッチクリームが1800円です。メーカーの人は『効く』と言って
いました」と書きました。するとある人は,「これは甘ったるい臭いで,べとついて,
嫌だけど,妊娠線ができるよりまし」とか,ある人は,「そんな物使ってもできる時は
できるよ」,またある人は,「普段お腹に余裕のある人はできないが,そうでない人は
できやすい」など。そんな意見を聞かれて,トンビさんの奥様はマドンナクリームを選
びました。

答える時、きをつけていること

 これらの質問には,管理者の私は,「私の時はどんなだった」とか,「私はこう思う
」とかを書き込みます。すると,他の会員もその書き込みについてコメントをそれなり
にしてくださいます。そしてそれらを総合的にみて,本人が自分で判断します。まだ判
断がつかないときは,またしばらく話が続き,結果的には自分で良いと思うものを自分
で探し答を見つけます。
 妊娠線クリームなどは,値段や使い心地などを聞くことができました。しかし,「ど
れがいいですよ」とは,私自身使ったことがありませんので,「メーカーの言うことで
すが」と言ってメーカーの話をするしかありません。結局マドンナクリームを使ったよ
うですが,妊娠線はできたそうです。
 医学的に,常識的に問題がある時以外は,特別「どうしなさい」という指導はしませ
ん。また,質問に対する答ですが,助産婦だからといって,「すべて私のいう通りにし
なさい」では,会員は納得しませんし,きっと,聞かないでしょう。私は,「こんな意
見もあるよ」「これなんかおもしろいよ」などたくさんの情報を与えることが,トラブ
ルを起こさない秘決なのではと思いますし,話が活発になるのではと思います。また,
納得のいく子育てができるのではと思っております。

その他
 子供のエピソードや発育や家庭の中での不安,ちょっとした愚痴や他の家族の様子な
ども,いろいろと書き込まれます。それぞれに,他の会員さんからも出産,お誕生日の
お祝いのメッセージや流産に対する同情,不妊の方や妊娠前の方へのエール等が送られ
ます。
りり子さんの育児ノート
 りり子さん(東京)から「子供の日記を何かに書き残しておきたい」との希望がきま
した。「私のボードを利用して書き込んでみて下さい」とお願いしました。それらの日
記はこれからママになる,新米ママには心強い参考書になると思うし,また,同じくら
いの赤ちゃんのママは自分の子供と比較して,安心やら納得やら,参考になるのではと
思いました。

●りりこ作「春子ノート:思いつき(1995年5月17日)」
 2か月も経つと,どうやら赤ちゃんもだいぶ人間らしくなってきます。春子との暮ら
しを,どこかにメモしておきたいな,と思っているところだったので,ホームパーティ
を利用して書いてみることにしました。参加者の皆さん,どこまで続くかわかりません
が,おつきあいください。

●りりこ作「春子ノート:生まれた時」
 びっくりしたのは,生まれたとき,本当につるっと出た途端に大きな声で泣いたこと
。思いっきり,大きな口を開けて,おなかの底から泣いていた。ああ,これが生まれた
瞬間・…・・。長い時間お互い大変だったよね。これから始まるんだよ。仲良くなれる
といいね。
「女の子ですよ」と言われた。ああ,この子もこんなふうに,赤ちゃんを産むこともあ
るんだわ,と思ったら,なんだかとっても幸せな気分になった。今年の母の日は,いの
ちの誕生を体験した記念に,母にカーネーションを贈ろう。私の母も,こんなふうにし
てわたしを産んだのだろう。いのちがつながっていくって,すごいことだわ。長い間,
なにかをしてもらって母に感謝したことはあっても,産んでくれてありがとう,いのち
をありがとうと思ったのは,初めての経験。すべてのおかあさんに,祝福を贈りたくな
った。だから今年の母の日は,鉢植えのカーネーションを買った。こんなに素直な気分
で母の日を迎えたのは,子供の頃から考えても初めてだ。このことだけでも,子供を産
んでよかったかもしれない。
 赤ちゃんのほうはどう思ったか分からない。もしかしたら,まだ生まれたくなかった
のにと思っていたのかもしれない。なにしろ陣痛が起きてから,2日半も出てこなかっ
たのだから。なかなか降りてこなくって,最後にパチッと膜にはさみを入れられたら,
あとは怒涛のように降りてきて出産になった。今でもときどき,「生まれたときの感想
を,しゃべれるようになったら教えてね」と言い聞かせているけれど,覚えていてくれ
るかしら。 出てきてすぐにお腹に乗せてもらって顔を見たけれど,泣き顔でくしゃく
しゃで,どんな顔だか分からなかった。とにかく,こんなに大きな声が出るんだから,
多分元気な子なんだわ。助産婦さんに「赤ちゃんをお風呂に入れてからまた連れてくる
からね」と言われたら,ほっとして眠くなった。ずるずると眠ったようだ。声をかけら
れて目を開けたら,白い布にきっちりと包まれた赤ちゃんがいた。眠っていた。薄暗く
してもらって抱いていたら,ふつふつと充実感が湧いてきた。不思議。赤ちゃんを熱望
していたわけではなかったはずなのに,こんなふうにして,赤ちゃんとわたしの毎日が
スタートした。女の子でよかったと思ったけれど,男の子でもきっとそう思ったろう。
「女の子か,いいな」といった夫の顔を思い出して,ちょっとうれしかった。

 こんな具合に,私はパソコン通信を通して,全国の妊娠,出産,子育てで頑張ってお
られるパパやママの相談相手になったり,また新しい情報を教えていただいたり,お互
いに勉強しております。家庭に入ってしまい,助産婦活動ができなくて,なにか私にも
できることがないかと模索した結果です。
 今はボランティアですが,これからの世の中,どの家庭にもパソコンが1台はある時
代が来ると思います。家にいて,好きな時間に新しい情報を知ることができ,病院まで
行かずに相談ができるシステムは嬉しいものです。


ホームパーティ管理者を経験して学んだこと

 ホームパーティを開いて,たくさんの人と知り合いになりました。電磁波の妊婦への
影響など,私には分からないことも多々ありましたが,そこは専門の方もいらっしゃっ
て,とても勉強になりました。またいろいろな疑問を質問されるたびに,新たに本など
を引っ張り出して調べることもあります。
 たくさんのコメントでは,こんな考えをする人もいるのだと新しく認識することもあ
り,これからの指導に役立てていきたいと思います。
 質問の中には,母乳が足りているかどうかの質問がありました。これは困りました。
実際にその場を見られないだけに,判断がつかない,うかつなことは言えない…・‥。
そんな時は,こちらから細かい所まで質問をしてみることです。そうすると,本人でも
少しは判断ができるようになります。たとえば母乳を絞って量を見るとか,お乳の張り
具合と飲んだ後の変化,体重の増え方など,数字にすると,自分で判断ができます。こ
ちらから決して「足りない」と言わないほうが良いと思います。「足りない」の一言は
産後のブルーを引き起こしかねないからです。できるだけ励ますように努めることです

 パソコン通信は文字だけのコミュニケーションですから,誤解が起こらないように,
書き込みには細心の注意と心配りをする必要を感じます。話をする時は,言葉のイント
ネーションや顔の表情も含めて言葉を理解したりしますが,文字だけではそれが全くな
いわけですから,慎重に言葉を選ぶ必要があります。かと言って,堅いだけの文章では
なかなか読む気になれないし,ホームパーティの雰囲気を柔らかくすることも大切です
から,ちょっとした絵文字を入れたり(^L^),駄洒落も必要ですし,難しいところ
です。
 最初は丁寧に書いていても,つい親しくなったような錯覚に陥り,ちょっとした言葉
から人を傷つけることもあると思います。そのようなことが起きないように,たまには
オフ会(実際に会って楽しく語らいをすること)を開き,もっと信頼関係を築く必要が
あります。もし,書き込みにより気を悪くすることがあれば,気がついた時点で言い訳
などせず,すぐに謝ることです。しかし,書き込みによっては気を悪くしてもその表現
もされないときは,「気を悪くしましたか」と伺うことも,後々しこりを残さず良いと
思います。
 会員は皆様,妊婦だったり,お産後すぐだったり,子育てだったりで,とてもデリケ
ートな部分があります。書き込みによっては励ましが落ち込ませる原因になることもあ
ると思います。あまりひどい場合(中傷などが行なわれた時)は,強制的に排除する必
要もあると思います。私のホームパーティはお陰様で現在トラブルもなく,楽しく和気
あいあいの雰囲気の中で行なわれています。


おわりに

 パソコン,ワープロを使っている人は全国で300万人と言われていますが,身辺に
パソコン通信をしている人はまだまだ少ないのが実情です。今後はだんだん一般的なメ
ディアになっていくと思われますが,現状においては,いまだ特別なメディアです。こ
れからの課題でしょう。
 お世話する管理者もいろんな経験を積む必要があると思います。1人の管理者がお世
話できる人数も限られています。
 私は家にいて,時間に少しのゆとりがありますが,勤務しながらのお世話は大変なも
のでしょう。しかし,会員の方々は,病院の中の様子なども知りたいのではと思うので
すが,そこまで手が回らないのが現状です。私は現在,家にいて助産所を開いておりま
す。乳房マッサージをしたり,沐浴に呼ばれたり,妊産婦の指導にお母さん教室を回っ
たりしていますが,現場でお産を取り上げておられる人には及びません。現場での意見
など書き込まれるともっと楽しいものになると思います。
 今後の展望としては,施設がそれぞれにホームパーティを開き,産院を中心とした,
外来通院者同士のネットワークができればと思います。特に産院は健康な人を対象にし
ていますし,妊娠・出産・子育てという過程は,日々変化しています。その時々で疑問
に思ったことにすぐに対応できるシステム,病院まで行かずに聞けるシステム,それが
パソコン通信だと思います。もっと大きく各々の病院がそれぞれにネットワークを組ん
で,また,インターネットを通じて,「世界子育てネット」など,今後いろんな試みが
なされることが期待できそうです。


 本稿の執筆にあたり会員の皆様,そして辻先生ほかたくさんの方々の御協力をいただ
きましてありがとうございました。
 また,本縞に少しでも興味をもたれましたら,私のほうへぜひ御一報をお願いいたし
ます。

奥田朱美のメールアドレス
NIFTY−SERVE ID・SGW01522
E−MAIL:akane@mahoroba.or.jp

                           おくだ あけみ